日中と朝晩の気温差も大きいですし、風邪のご相談で来られる方も増えてきました。
ただ、昔に比べると薬局・薬店に風邪薬を買いに来られる方は少なくなりました。
病院を受診する方が多いのではないでしょうか。
風邪の時、医師にかかると、抗生物質を出されることが多いのではないでしょうか?
しかし、厚生労働省が作った薬の使用指針では「風邪(感冒)に抗生物質は使わない」と書かれています。
抗生物質(抗菌薬)には細菌を殺す効果があり、感染症の治療に欠かせない薬です。
風邪にも広く使われており、全国の医療機関のレセプト(診療報酬明細書)データでは、急性上気道炎(風邪)の6割以上に抗生物質が使われていました。
しかし、風邪の原因の9割は、細菌よりはるかに小さいウイルスで、抗生物質は効きません。
これは、患者に使用した海外の多くの研究で確かめられています。
使用すると、逆に下痢、嘔吐などの副作用が増えます。
抗生物質を飲むと、私たちの腸の中に住んでいる腸内善玉菌も殺してしまいます。腸内環境が悪化してしまうのです。
そして、腸内環境が悪化すると、アレルギーの発症リスクも高まってしまいます。
実は、多くの医師が抗生物質が風邪に効かないことを知っています。
それなのに抗生物質を処方しているのが現状です。
風邪をこじらせて肺炎などになるのを防ぐという名目で処方しています。
しかし、肺炎などの予防効果もほとんどないことが、様々な研究で明らかになっています。
そこで、厚生労働省は2017年、抗生物質の使用指針「抗微生物薬適正使用の手引き」を作り、
薬が不要な場合と有効な場合を示しました。
それによると、
急性気道感染症(風邪)は、大半を占める「感冒」と、「急性鼻副鼻腔炎」「急性咽頭炎」「急性気管支炎」に
分類されています。
このうち、感冒は、熱の有無にかかわらず、①鼻水、鼻づまり、②喉の痛み、③咳、痰 の3症状いずれもが現れる場合をいいます。
手引きは、感冒に対して抗生物質を「使わないことを推奨する」としています。
急性鼻副鼻腔炎は、3症状のうち、何日間も鼻がつまったままで、においもわからないなど、特に鼻炎症状が強い場合を指します。
喉の痛みが特に強ければ急性咽頭炎、咳や痰が長く続く場合(通常2~3週間)を急性気管支炎と呼びます。
軽度の急性鼻副鼻腔炎では抗生物質の効果は認められず、副作用の方が大きいです。
ただ、粘りの強い鼻水が多く出る、顔面に痛みがある、など症状が重い場合は抗生物質の使用を検討します。
また、小児では、▽鼻水などが10日以上続き、咳もある▽39度以上の熱と、膿状の鼻水が3日以上続く・・・などの場合に抗生物質の使用を考えるとしています。
急性咽頭炎は、細菌検査で溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)が検出された場合に限って抗生物質を使用します。
急性気管支炎は、慢性呼吸器疾患などの持病がある人や百日咳を除き、抗生物質を使いません。薬を使っても、咳が早く治まるわけではないからです。
結局、風邪の中で抗生物質が必要なのは、ごく一握りで、1割にも満たないのです。
厚生労働省はなぜ、2017年に抗生物質の使用指針「抗微生物薬適正使用の手引き」を作成したのかというと、
抗生物質の使い過ぎで、薬の効かない「薬剤耐性菌」が問題になっているからです。
耐性菌は治療が難しく、英国では年間約5000人、米国では23000人が死亡しているといいます。
日本でも英米同様に多数の人が命を落としているとみられます。
風邪など軽い症状に乱用していると、肝心な時に効かなくなってしまうのです。
厚生労働省は、抗生物質の使用量を2020年までに3分の1減らすことを目指しています。
それだけ不適切な使用が横行しているともいえるでしょう。
残念ながら、風邪と薬に関する知識は広まっていません。
手引きの作成に当たった国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫医師らが、一般市民にインターネットでアンケートしたところ、「風邪に抗生物質が効く」という誤った回答が44%に上ったそうです。
皆さん、風邪に抗生物質が効くと思い込んでしまっているのです。
これから少しずつでしょうが、風邪の時の抗生物質の処方は減っていくかと思いますが、
抗生物質が処方されないことを不安に思わないでください。
こちらから医師に抗生物質の処方を要望しないようにしましょう。
抗生物質は本当に必要な時に使うべきだからです。
(有野台薬品 井上満弘)